カーボンニュートラルの未来へ、
受け継がれる常石の船造り

海事産業が取り組むべき
温室効果ガス(GHG)の排出量低減

地球温暖化の要因の一つに、大気中の温室効果ガス(GHG*1)の増加が挙げられます。温室効果ガスのなかでも、その大半を占めるのが二酸化炭素(CO₂)です。

 

国際貿易において同じ重さの貨物を同じ距離輸送する場合、他の輸送手段と比べると船舶の排出するCO₂は圧倒的に少なく、もっとも効率的です。それでも、世界の貿易量は増加の一途を辿っており、それにともなって船舶の排出するCO₂量は年々増加しています。

 

国際海事機関(IMO*2)が2020年に公表したGHG排出量などに関する報告書によれば、2018年の国際航海に従事する船舶から排出されたCO₂は約9.19億トンで、世界全体のGHG排出量の2.51%に相当しています。これはドイツ1国分(排出量世界第6位)の年間CO₂排出量と同等の規模に相当します。

 

IMO でも2016 年のパリ協定を契機に、脱炭素に向けて今世紀中の早期に排出量ゼロを目指す「GHG 削減戦略」が採択されました。

 

現フェーズでは、2030年までに単位輸送量当たり排出量を2008年比で40%以上削減する目標値が掲げられており、2023年からは新造船だけでなく既に運航されている船舶へも適用されるため、海事産業におけるCO₂の排出規制はより厳しさを増しています。

 

*1 GHG: Greenhouse Gas
*2 IMO: International Maritime Organization

先駆けて経済性と汎用性を両立する
省エネルギー船舶の追求

顧客価値の創造へ常石造船が一貫して挑んできたテーマが、「経済性」と「汎用性」の両立です。

 

1984年の1番船竣工以降現在まで、お客さまに愛され続けているばら積み貨物船のブランド「TESS(Tsuneishi Economical Standard Ship)」シリーズは、その名が示す通り燃費性能に優れた経済性と、使い勝手の良い汎用性を両立する船型です。それまで造船業界で一般的であった「オーダーメード」型の生産ではなく、市場調査に基づき“標準船型”を策定することで「レディーメード」型に変え、より効率的な船造りを実現しました。

 

さらに2004年には、国際海運の要衝であるパナマ運河を通行可能な最大船型のパナマックスクラスにおいて、新たな「レディーメード」型の船型として「カムサマックスバルカー」を開発。それまでパナマックスクラスの船型では7万トン級までが限界といわれていた業界の常識を覆し、8万2千トンにまで積載量を増加させることで輸送効率を高め、カテゴリシェアNo.1のベストセラー船型として今日まで300隻を超える竣工実績を重ねています。また、新パナマ運河開削にあわせ、より積載量を増やした88,000DWT型“ワイドカムサマックス”も開発、引渡を始めています。

 

さらにその間、風や波の抵抗を低減する船体形状と独自の燃費向上技術に磨きをかけることで、トンマイルあたりの燃料消費量は、2005年就航の1番船比で31%もの改善を達成。当社の船造りの歴史は、まさに経済性と汎用性の追求の歴史なのです。

燃費性能と経済性を両立する、ばら積み貨物船「TESS(Tsuneishi Economical Standard Ship)」シリーズ
積載量の常識を覆したカムサマックスバルカー

革新的な製品を実現する
飽くなき姿勢

来たるべきカーボンニュートラルの時代を見据えた船造りにおいて、その基準となる指標がEEDI*3(エネルギー効率設計指標)です。これは、新造船の CO₂排出量を、設計・建造段階において「一定条件下で、1トンの貨物を1マイル運ぶのに排出すると見積もられるCO₂グラム数」として指標化し、船舶の燃費性能を表すものです。

 

現在、CO₂の排出規制で、基準値比20%削減の「EEDIフェーズ2」が適用されていますが、常石造船は2025年以降の契約船に対する規制である「EEDIフェーズ3」(基準値比30%削減)を前倒しでクリアし、環境負荷の低減と燃費向上を実現しています。

 

これを可能としたのは、これまで長きにわたって培ってきた、経済性と汎用性を重視した船造りの知見とノウハウの積み重ね、そして革新的な製品を実現しようとする飽くなき姿勢です。

 

船首部の波の抵抗を軽減する「SEAWORTHY」といった形状開発、日本郵船グループの技術会社であるMTIと共同で開発した省エネデバイス「MT-FAST」、船外から空気を取り入れ、エンジンの燃焼効率を向上する「FAIS(Fresh Air Intake System)」のような燃費効率化のための付加物の開発、搭載によって環境性能でアドバンテージを維持し続けています。

 

*3 EEDI: Energy Efficiency Design Index

カーボンニュートラル実現に向けて
変革を恐れず舵を切る

既存技術を活かした燃費向上による環境負荷低減の追及は、これまでの国際規制の目標値を上回る成果を上げてきました。しかし、これから求められるカーボンニュートラルの実現においては、これまでの延長線上の技術開発だけでは限界が訪れつつあり、世界の潮流を捉えた新燃料船への対応が急務です。

 

これまでに、自社開発のタンクを搭載したLPG(液化石油ガス)船や、LNG(液化天然ガス)専焼の石灰石船を開発してきましたが、さらなる可能性を模索し、株式会社商船三井および三井E&S造船株式会社と共同で、アンモニアを燃料とするネットゼロ・エミッション外航船の開発に着手し、2026年ごろの竣工、運航を目指しています。

 

さらにツネイシクラフト&ファシリティーズ株式会社では、リチウムイオン電池を搭載した電気船や、水素エンジンによって駆動する水素燃料船など、ゼロ・エミッションにつながる新たな動力や燃料の船舶を実現しています。

 

常石グループは、創業以来120年を越える年月のなかで、造船業界にさまざまな新時代を築いてきました。今後も、あらゆる可能性に着目して革新的な船造りに挑み、産業の発展と同時に、カーボンニュートラルの実現に尽力してまいります。

株式会社商船三井および三井E&S造船株式会社と共同で開発を進める、アンモニアを燃料とするネットゼロ・エミッション外航船(イメージ)
騒音や振動が少なく、排気ガスを排出しない電気推進旅客船「fugan」
水素エンジンによって駆動する水素燃料船「Hydro BINGO」