歴史ある建物のリノベーションを起点に、
尾道の未来をひらく

100年先も誇れる
尾道の新たな可能性を創り出す

瀬戸内海の青い海と緑豊かな島々が織りなす景観は、日本を代表する観光資源です。なかでも数々の映画の舞台になった尾道は、古くからその独特な景観が多くの人を魅了してきた街であり、絶景の島々をめぐる「しまなみ海道」の本州側起点でもあります。

 

地域の発展のために、1980年代初頭からホテルやマリーナなど、さまざまなライフ&リゾート事業を手がけてきた常石グループが、近年特に力を入れてきたのが、尾道の隠れた魅力を、今のニーズに合わせて再構築・再発信するリノベーションプロジェクトです。

 

今でこそ「地域活性の一つの施策」としてよく耳にする古い家屋や空き家のリノベーションによる魅力の再構築ですが、2000年代-2010年代初頭までは、それほど一般的ではありませんでした。

地域の資産を再生し、
新たな命を吹き込む

観光収入の減少や若者人口の減少などの課題を抱えていた尾道で「若い世代が働きたくなるような仕事の“場”をつくり、もう一度この地域を盛り上げたい」。そんな思いを出発点に、プロジェクトはスタート。尾道の魅力をいかに向上させていくか。そのとき着想したアイデアが、地域にある資産を再活用することでした。

 

尾道には、歴史的価値を持つ建物がいくつも存在します。しかしその多くが老朽化し、空き家のまま点在していました。これらの建物に、新たな命を吹き込むことができれば、尾道の文化を大切にしながらも、若い世代に魅力的な、新しい価値を創造できるのではないかと考えたのです。

 

私たちは3つのプロジェクトに連続的に着手しました。2012年より、昭和初期の豪商の別荘「島居邸洋館」、江戸時代後期に出雲松江藩の出張所だった「出雲屋敷」という二つの歴史的な建物を再生し、滞在型施設「せとうち 湊のやど」をオープン。2014年には、休眠していた海運倉庫をリノベーションした商業施設「ONOMICHI U2」をオープン。さらに2018年には古いアパートをリノベーションしたホテル複合施設「LOG」をオープンさせました。

 

これら3つの施設に共通するのは、いずれも当時のしっかりした建築技術に裏打ちされた構造を持ち、優良な材料を使って建てられた、後世に残す価値のある魅力的な建築物であったことです。これまで長く人々の記憶や歴史を刻み込んだ場所を未来につなげることにより、尾道と瀬戸内の魅力をあらためて多くの人に知ってもらうことができると考えたのです。

「せとうち 湊のやど」。写真左/昭和初期の豪商の別荘「島居邸洋館」。写真右/出雲国松江藩の出張所「出雲屋敷」
歴史の重みを感じさせる空間から「せとうち」の文化を「暮らすようにゆったり愉しむ」新しい旅のスタイルを提案

サイクリストと地元の人が
交差する人気スポット「ONOMICHI U2」

広島県が公募した築79年の海運倉庫「県営上屋2号」のリノベーションで誕生した「ONOMICHI U2」。「上屋(うわや)」の頭文字「U」と「2号」の2をとって「U2」と命名されました。

 

しまなみ海道の本州側入り口である尾道には、国内外から多くのサイクリストが訪れます。設計の条件に「倉庫の外観は残すこと」が挙げられていたため、外観は趣のある昔のままで、サイクリストが利用しやすい場所にすることをコンセプトにしています。

 

昔ながらの風景が残る駅前にできた新スポットに、地元からは「少しおしゃれすぎる…」という声もありましたが、今では多くの人が行き交うランドマークとして機能しています。サイクリストに寄り添う「サイクル」のコンセプトには、「活かすこと・残すこと・循環していくこと」の想いも込められています。

地元食材を使ったレストランやカフェ、地元産品を扱うショップなどバラエティ豊かな店舗が並びます
地元食材を使ったレストランやカフェ、地元産品を扱うショップなどバラエティ豊かな店舗が並びます

尾道の山の手に
明かりを灯す「LOG」

2018年オープンの「LOG」は、尾道の山の手にあった「新道アパート」(昭和38年(1963)築)を大胆にリノベーションしたホテルを併設した複合施設。

 

LOGは「LANTERN ONOMICHI GARDEN」の頭文字をとったもので、「人の営みを見つめてきたアパートメントの温もりを残しながら、尾道の山の手に灯り(LANTERN)をともす」という意味が込められています。設計は、世界的に活躍するインドの建築家、ビジョイ・ジェイン氏率いる「スタジオ・ムンバイ」。大地の素材を使い、人の手で空間を作り出すことをモットーとするジェイン氏と打ち合わせを重ね、約5年がかりで完成しました。

元々は3階建て24部屋のアパートでしたが、現在は3階の6室のみを客室として活用<Be gentle-優しくあれ>のコンセプトに貫かれた、あたたかな空間が特徴
ダイニング、カフェ&バー、ショップや庭などオープンなスペースも。食のイベントや、瀬戸内の文化・暮らしの知恵などを体験するワークショップなども多く開催


地域を元気にする
新しい「扉」に

これらの3つの施設は、観光客やサイクリストに尾道の魅力を発信しながら、地域の人や企業との新たな共存共栄の形を生み出しています。地域経済の底上げのために始めた事業が、既存の地域の顧客を奪うものであってはなりません。新たな宿泊スタイルなどの提案によって、ビジネスホテルなどと競合せず、サイクリストなどの新たな層を呼び込むことができたことは大きな成果でした。

 

3つの施設は現在、100名以上の新規雇用を生み出しています。さらに、街に新しい活気が生まれたことで、尾道に移住、あるいはUターンで戻ってくる若い世代が増え、彼らが地元で新しいビジネスを始めるといった動きも生まれ始めています。

 

宿泊施設は、地域の「扉」に例えられます。一度訪れた利用者をリピーターにできれば、その効果は地域観光業全体に持続的に広げていくことができるようになります。動き出したこの巡りを、途絶えることなくどうつなぎ続けるかが、これからのテーマです。

不易と流行のかけ算で、
唯一無二の価値を生み出し続ける

ONOMICHI U2やLOGでは、地元の農家や漁業関係者、ジーンズメーカーなどの地場産業はもちろん、様々な人たちとコラボレーションしながら、新しい商品やサービスの開発に取り組んでいます。2021年には、コロナ禍によって廃棄するしかなかった地域特産でもあるレモンを購入し、フードロス削減の観点で共感いただいた世界的なパティスリー「ピエール・エルメ・パリ」とのコラボレーションでマカロンを開発しました。

ピエール・エルメ・パリとのコラボで生まれたオリジナルマカロン。写真は、高品質なデニムを国内外に送り出すカイハラ株式会社(広島県福山市)のデニム生地をまとった限定BOX仕様

宿泊・観光事業にとって、事業のサステナビリティをどのように担保していくかは、常に大きな課題です。目新しい取り組みで評判を得るものの、一過性のブームに留まる観光施設も多々あります。

 

不易と流行。尾道の歴史や文化、自然、食の豊かさといった普遍的な価値を守りながら、様々な人や事業者との「かけ算」で、ここに訪れる意味を絶えずつくり続けていく。尾道にしか生み出せない唯一無二の価値を、地域・社会と共につくり上げていく。私たちはこれからも内外をつなぐハブとなり、地域全体の好循環を生み出す様々な挑戦を続けていきます。