プロジェクトストーリー

PROJECT STORY

2015年の初冬。常石造船で建造された『TESS 58 AEROLINE』が進水式の日を迎えた。盛大に舞う紙吹雪や勇壮な音楽のなか、巨大な船が海へ滑り出す様子はまさに圧巻だ。その華やかな式典の裏側には、どのような人々の努力や情熱が秘められているのだろうか。

宇治野 史人
Fumito Ujino
常石造船株式会社
常石工場 建造部
外業グループ

山口 敬廉
Takayuki Yamaguchi
常石造船株式会社
営業本部 業務室
常石業務グループ

山形 和代
Kazuyo Yamagata
常石造船株式会社
営業本部 業務室
常石業務グループ

三嶋 新助
Shinsuke Mishima
神原タグマリンサービス
株式会社
船舶部 船長

下村 秀明
Hideaki Shimomura
ツネイシLR株式会社
ホテル・マリーナ事業本部
婚礼支配人

梅田 幸治
Koji Umeda
ツネイシLR株式会社
ホテル・マリーナ事業本部
総支配人

常石グループの社員が一丸となって作り上げた、感動の進水式。

『TESS 58 AEROLINE』は5万8千トン級のばら積み貨物船だ。全長約190m、建造期間は約9カ月にも上る。そのビッグプロジェクトの節目となるのが進水式。船体の進水を祝い、命名式や祝賀会などが催される晴れの舞台だ。
常石造船の進水式は、海へ向かって船を滑らせるボール進水で行われる。ドッグに船を浮かべるドック進水と比べてセレモニー的な要素が高く、ファンも多いという。地域住民や社員の家族、遠方からの観光客など、当日訪れた見学者は実に1000人近く。また、地元の保育所によるマーチングが披露されるなど温かみのある雰囲気のなか、進水式は成功のうちに終了した。
その成功を、陰で支えていた人々がいる。常石造船、神原タグマリンサービス、ツネイシLRの社員たちだ。
進水式や造船において全体的な指揮を執る常石造船。そのなかで建造部・外業グループの宇治野は、進水準備など現場の管理を担当している。一方、船主に対するフォローや進水式スケジュール立案などを任されているのが、業務室・常石業務グループの山口と山形だ。
また、進水式の安全に欠かせない存在が神原タグマリンサービス。単体では自由の利かない大型船の離接岸には、タグボートと呼ばれる作業船が必要となる。豊富なタグボート操縦経験を持つベテラン船長・三嶋は、進水する船をサポートする重要な役割を担う。
そして、前夜祭や式典後の祝賀会など、進水式を彩るパーティはツネイシLRの出番だ。同社が運営する『ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道』の総支配人・梅田や接客を取り仕切る下村は、船主や関係者など、滞在中のゲストへあらゆる“おもてなし”を提供する。
彼らが進水式の成功に果たした役割、そして、造船というビッグプロジェクトにかける想いに迫った。

ひとつのミスですべてが終わる。極度の緊張のなか、任された重責に挑む。

『TESS 58 AEROLINE』の進水式準備が始まったのは二週間前。まずは、ブロックと呼ばれるパーツの組立や溶接・塗装作業を終えた船体を滑らせるための滑走台を設置する。その後は必要最低限のものを見極めながら支えを取り外し、滑走台へ船の重量を移していく。こうした入念な準備により、進水式本番では残った支えを引き抜き、トリガーと呼ばれる装置を作動させるという簡素な手順で進水させることが可能となる。トリガーは船にとって最後の支えであり、担当するのは宇治野の部署だ。
「進水式では、支綱という一本のロープを船主が切断してシャンパンを割るというセレモニーがあります。そのタイミングに合わせてトリガーを下ろすのですが、我々の作業する場所からは切断の瞬間が見えないため、式典台近くにいる社員からの連絡が頼りです。少しでもタイミングを外せば進水式が台無しになってしまう。その責任は常に感じています」
その重責は、船長の三嶋も同様に感じていた。常石造船では、進水場所の脇にフローティングアイランド(浮島)があり進水スペースが限られている。そのため、タグボートにとっては非常に難しい作業環境だという。
「複数のタグボートを使い、各方向から船を押して進水を助けるのが我々の役割ですが、なかでもフローティングアイランドに接触しないよう、横から押すポジションが一番難しい。横の担当になった時は、まさに身の引き締まる思いですね」
また、進水式では天候などの不可抗力に左右されることもある。そこで現場の状況を見極め、安全第一を念頭に置いた判断を下すのが、進水作業の指揮を執る常石造船のドッグマスターだ。
『TESS 58 AEROLINE』の進水式においてもドッグマスターの指示のもと、通常3隻用いるタグボートが4隻に増やされるなど、当日のコンディションに合わせた適切な対策が講じられたことで、通常通りの安全な進水が行われた。

進水式を最高の思い出にしてほしい。その想いが“おもてなし”の原動力となる。

見事な進水に歓声を上げる船主や見学者の傍らで、息つく間もなく次の業務に向けて動き出した社員がいる。営業室の山口と山形だ。進水式に関わるスケジューリングを担う立場として、山口たちは式典中も、祝賀会の行われる『ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道』と緊密に連絡を取り合う。
「ゲストには、船主様やご親族・ご友人をはじめ、船を利用する荷主や運航会社、銀行などさまざまな方がいらっしゃいます。滞在中の過ごし方やご要望、体調なども各人で異なるため、関係各所との細やかな連携は欠かせません」
一方、連絡を受けた『ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道』の総支配人・梅田は祝賀会の手配に着手。祝賀会で行うアトラクションや料理の準備、さらには、ゲストの到着時間に合わせてシャンパンを開けるタイミングにまで気を配る。
「すべてのお客様に対して、最高のおもてなしをご提供することが我々の目標です。特に、進水式のゲストは『ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道』のお客様であると同時に、常石グループのお客様でもある。あの時は、普段とはまた違う緊張を感じていました」
また、国内外に幅広く展開する常石グループでは海外からの造船依頼も多く、進水式には多種多様な国籍のゲストが参加する。接客担当の下村によると「海外のお客様にとって一番の楽しみは“日本に来ること”」だという。
「瀬戸内の美しいロケーションを楽しんでいただくのはもとより、食事についても地元の食材を活かした和食をご提案したり、アレルギーや宗教など食事制限のある方には対応した食材を取り寄せたりと、サービスには細心の注意を払います。お客様の楽しみをスタッフ一丸となって盛り上げたい。すべてはその一心ですね」

誰一人欠けても実現しない、造船というビッグプロジェクトにかける想い。

ひとつのミスも許されない進水式に向けて、常石造船が準備に費やした膨大な努力。難しい立地や刻々と変化する天候にも柔軟に対応し、見事進水を成功させた神原タグマリンサービスの職人技。そして、ゲスト一人ひとりへ細やかに心を配る、ツネイシLRのおもてなし精神。すべての社員が最高のパフォーマンスを発揮しなければ『TESS 58 AEROLINE』の進水式は実現しなかった。
今回の進水式を振り返り、宇治野は改めて一人ひとりの存在の大きさを感じている。
「進水式も含め、造船は我々や神原タグマリンサービス、ツネイシLR、外部の協力会社など、すべてがひとつにまとまることで、初めて成功するビッグプロジェクトです。だからこそ、人のつながりは一番大事にしたいですね」
彼らにとって、進水式はまさに団結と努力の象徴だ。誰もが思い思いの感慨を抱いてその日を迎える。それは、進水式会場と離れた『ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道』で働く下村にとっても同じだ。
「現在の業務に就く前から、進水式はよく見に行っています。初めて見学した時は、船の大きさや盛大な式の様子にただ圧倒されるばかりでした。しかし、進水式に携わる社員たちの背景が見えてきたいま、改めて進水式を目の当たりにすると、自分の責任の大きさに気づかされます。任された仕事をやり遂げようという想いも一層強まりました」

そして、進水式から数か月後。艤装工事など、すべての作業を終えた『TESS 58 AEROLINE』は、船主への最終的な引き渡しの日を迎えた。常石造船の社員たちが見送るなか、静かに出航が始まる。建造や進水式に携わった、あらゆる人々の苦労や努力。そして、ビッグプロジェクトにかける社員たちの情熱。その想いのすべてを載せた『TESS 58 AEROLINE』を見つめる彼らの目には、一筋の涙が光っていた。

(ライター:田中 由起 )

※写真はイメージです。

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